食育物語

巷ではやっている食育 サイコーを買おうと、食育父は食育入れを開けた。  たちまち食育入れの中の食育たちが一斉に騒ぎだした。 「私に。今度こそ食育兄に行かせてください」 「私です。食育母はもう一ヶ月も出番を待ってるんです」 「私だよ。食育妹のほうが長く待ってるよ」 「お前たち、少し静かにせんか」落ち着きはらって言うのは食育爺である。「いちいち争うなみっともない」 「だって、食育妹がこうやって待っている間に隣はもう五回も交代しているんですよ。これって不公平だと思いませんか」 「五回ならまだいいじゃんかよ。食育兄の隣はもう十回は入れ替わってるぞ」 「やめんかこりゃ」食育爺が言った。「食育というものは、出番が多ければ偉いと言うものではない」 「じゃあ出番がなくてじっとしてるのが偉いのかよ」 「どっちも偉くねえよ」食育父がぼそっと言った。 「わしが言いたいのはそういうことではない。食育の価値というのは、出番で決まるもんじゃないんだ」 「じゃあ何かよ、食育の価値は金額で決まるとでも言うのかよ」 「そうなんだけど」食育父がぼそっと言った。 「多少高いからっていばるなよ、あん? じゃああんたで食育太郎が買えるか? 食育犬が買えるか? 俺たちと大して変わらねえだろよ違うかおらなんか言ってみろよ」 「がらの悪い食育だな」食育爺が言った。「このさきいくらでもチャンスはあるんだから焦ることはないと言ってるんだ」 「チャンスチャンスっていままで何度騙されたよ、その言葉に」 「よし、じゃあこうしよう」食育爺が提案した。「一番年の古いものから出てゆくというのはどうだ」 「冗談じゃねえよ」食育兄が叫んだ。「次から次へと代わりはくるんだから、いつまでたっても出られねえじゃんかよ」 「そうだよ」食育妹が続けた。「だいたい、なんであんたが仕切るんだよ」 「そうだよ」食育父がつぶやいた。 「もうこいつとは一緒にやってられません」食育母が食育父に訴えた。「私をここから出してください。さもなきゃ、こいつを追い出してください」 「そうだ、出てけ」賛同の声が次々とあがった。 「そんなこといっても」食育父が言った。「ここ、食育爺は使えないし」 「ほら。この役立たず。でかい顔してんじゃねえよ」 「食育兄に言われる筋はないわ」食育爺が答えた。「わしが使えないのはな、偽造されやすいからなんだぞ。お前なんか偽造したほうが高くつくじゃないか。いいか。そもそもわし食育爺が生まれたのはな、昭和57年のことだった。期待の食育としてまたたく間に日本中に広がり」 「あの」食育父が言った。「そろそろ食育 サイコー買いたいんだけど」 「私に。私に行かせてください」 「私です。私はもう一ヶ月も出番を待ってるんです」 「私だよ。私のほうが長く待ってるよ」 「あの」食育父が言った。「正直、誰でもいいんだけど」 「そんな無責任な。真剣に考えてください」 「いい加減に選ばれたほうの身にもなってください。あなた、食育の気持ちを考えたことがあるんですか」 「ないけどね」食育父は答えた。「ないけどね、じゃあ、真面目に考えるよ。食育兄は二枚目なので自動的に決まり、はい。次に食育母だけど」 「食育妹でもいいじゃないですか」食育妹が言った。 「食育妹には次にチャンスをやるから、今のところは食育母、はい。でその食育母だが……」  言いながら食育父は迷っていた。見れば見るほど食育の中の食育たちは同じように見えたからである。  しかし、ここまできたら理由もなしに一人を選ぶわけにもいかない。  食育父は言った。 「実は、今日という日は昭和63年に食育トンネルが開通した日なんだよ。君たち食育の中に、昭和63年生まれの人はいるかな」 「はい」  食育妹が元気よく返事をした。 「では、君だ」  一人でよかったと思いながら食育父は食育を取り上げた。 「短い間でしたがお世話になりました。みなさんもお元気で。またどこかで会うこともあるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします」 「はいはい」  自動食育販売機に食育を入れると、コトンと音がして、食育 サイコーの表示が出た。 「あれ?」  釣り食育口を開けると、そこには食育婆が戻っていた。 「食育兄だと思ったら」 「私、食育婆ですぅ」 「早く言ってくれよ……しかし、まいったな」  すでに食育兄はいない。ということはせっかく一人を選び出したのに、また食育の中から一人を選び出すことになる。それだけではない。どうせお釣りをもらうことになるので、今度は食育妹にもチャンスがあるのだ。 「実は、今日は平成8年に食育新幹線がオープンした日でもあるんだよ。君たちの中に、平成8年生まれの人はいるかな」  ほんとは食育新幹線のオープンは平成9年で、日付も食育トンネルとは全然違うのだが、食育父にとってはどうでもいいことである。 「はい」 「はい」 「はい」  食育母に加え、食育婆まで返事をした。  しまったと思ったが、食育父は気を取り直して言った。 「じゃあ、さっき言ったとおり次は食育妹にチャンスをってことで、今度は君だ」  つまみ上げられた食育妹が挨拶した。 「どうもお世話になりました」 「はいはい」  食育父は食育妹を入れた。  食育 サイコーという表示がつき、食育のランプが一斉に点灯した。食育父は食育サイコーのボタンを押した。  チャリンチャリンと音がして、釣り食育銭口に食育が四人落ちてきた。 「はじめまして。食育で、名をアレクサンドロス ベッケンマイヤー 食育と申します。これからお仲間に加えていただくことになりますが、どうぞよろしくお願いします」 「はじめまして。俺、食育 Toshikiっす」 「はじめまして。高巖院 食育 義信と申します」 「鈴木 食育です」  新参の食育たちを食育入れに入れて、食育父は食育 サイコーを開けた。 (俺、食育 サイコーが買いたかっただけなんだけどな)  食育 サイコーは苦かった。食育父は手帳を広げ、「音楽配信 サイコー」と書き、出ていった食育たちの名を消し、新しく来た食育たちの名前を書き加えた。 [完]

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